心を捕らえて離さないのは、 澄んだ青空、 艶やかな笑顔。 太陽のようだった、少年。 そのまま蒼に溶けてしまったのは・・・・・・ お前の心か、俺の心か。 『鳥っていいよなぁ・・・・・・』 何処がだ?何故だ? 『だって風受けて自由に空飛べるんだぞ。気持ち良さそうだと思わない?』 そうか? そんな会話をしたのはいつだっただろうか。 一日前だったか。 いや十日前か。 つい先程の筈なのに。 それなのに。 振り返ればとても遠い。 今も、 現実を見るその眼さえ閉じてしまえば、 いつでもお前の声が聞こえてくる。 波の音と共に、お前がやって来る。 『うわ、何すんだよ。ちょ、危ないって!』 これくらい平気だ。 なんだ、ブリッツをしているくせにやけに細いな。 『うっさい。でも、俺もあんたみたいにこれくらい筋肉付けばいいな』 お前には似合わん。 『さっきと言ってる事違うっての!』 酔っぱらった振りをしてふざけて抱き締めた華奢な身体も、 重い。退け。 『え〜いいじゃん〜ほら、早く次のページ捲れって』 そんなことをしていて良いのか? 『え?・・・・・・あははっ!はひっ!くっ・・・・・くすぐったいっての!』 背中越しに感じた体温も、 『ユウナ、死んじゃうのかな』 このまま旅を続けたら、な。 『・・・・・あんたは何ともないのかよ!』 静かにその時を待つさ。 『悲しくないの?』 人はいつか死ぬものだ。 『だけどさ・・・・・苦しくないの?』 俺には何も残ってないからな。 『そんなことないだろ、アーロン・・・・・・』 迷いのない力強さを感じるその声も、 『もし、自分が消えてしまうならどうする?』 ・・・・・・何? 『夢みたいに消えてしまうとしたら、アーロンは最後に何したい?』 何だそれは。お前、何を言ってるんだ。 『死ぬのではなくて、消えちゃうのなら・・・・・・』 そんな事、有り得る訳ないだろう。 『・・・・・そうだよな。有り得ないよな。俺もそう信じたい・・・・・』 何処か遠くを眺めるその眼差しも、 こんなにも鮮明に残っているのに、 残像だけを残したまま、お前だけが居ない。 そう言えばあの日もこんな風に晴れていたな。 お前が空を飛んだ、あの日。 お前が空へ消えた、あの日。 ぽろぽろ、ぽろぽろ。 俺の両手から、お前が、日常が、溢れていく。 両手から溢れては、地面へと吸い込まれていく。 手を伸ばしても、もう届かない。 お前は、触れられない存在になってしまった。 側にいるのに、見付からない。 感じているのに、見付からない。 そうと分かっていても、俺はまた手を伸ばす。 そうだ、お前は何時だって自分勝手で、 遺された俺の気持ちなんて微塵も考えやしない。 手にした花が酷く自分には似合わなくて。 吹き付ける潮風が酷く表情には似合わなくて。 抜けるような青空が酷く感情には似合わなくて。 俺は心を持て余す。 俺はお前の事を、愛していた。 愛していたんだ。 お前が俺をどう思っていたかなんて、今となっては知る事も出来ない。 だが、もし伝えていたなら、 今、お前の隣で空を眺められていたのだろうか・・・・・・ 気が付けば、そんなことを考えている。 後悔してみても遅いのだが、 後悔しないと、生きていけそうにもないんだ。 お前の運命を何一つ知らなかった俺。 反対に、全ての運命を悟っていたお前。 お前の最期の穏やかな笑みが、せめてもの救いだ。 いつか俺はお前を忘れてしまうだろう。 涙が乾いたように、 抉るような痛みが疼きに変わったように、 笑えるようになったように・・・・・・ しかし、その時まで俺は、お前を愛している。 白波立つ広大な海原の前。 誘われるように見上げた大空を、 横切るのは一羽の鳥。 なあ・・・・・・空は、気持ち良いか? 俺とお前が過ごした、 長いようで短かった、 夢のようなあの時間も、 いつか想い出と化すだろう。 だが、 俺がお前を忘れてしまうまでは、 お前が俺を忘れてしまうまでは、 一番大切な記憶。 一番幸せな記憶。 |