夢のふち 甘く匂う白い腕に、絡め取られる死人。 俺など、取るに足らぬ魔物だと笑うか? お前はまだ、気付いていない。 徐々に蝕まれ、理性の底に染み込む狂気。 死人と交わることを、なぜ人は恐れるのかを… 言われるままに奪った身体は、まだ蕾の風情で 微かに震える肩に、壊れてしまえと噛み付いた。 刹那の支配…憐れな夢。 穏やかに微笑む瞳の、輪郭がぼやける。 死人を覆う偽りの肌に、爪を立てる細い指。 そうか、縋るものが欲しいか。 思うさま壊せばいい。 それでお前の気が済むのなら。 意識の下で戦ううちは、まだお前は正気でいられる。 お前の狂喜を見守る俺は、虚ろな深淵を覗くようで… いつか、壊れる。 束の間の激情に身を焦がし、すすり泣く唇。 いっそ、このまま… 魔物の欲に身を委ね、 永遠の悪夢へと…… 「アーロン…」 あたしは、いつか…… アーロンを… 壊してしまうのかも… …しれない… 恐れさえもその身に飲み込み、お前は夢を選ぶのか。 崩れ始める記憶の輪郭。 いつかの願いが遠ざかる。 独りを怖れて一人を欲した。 無くすぐらいなら手放せと。 そんな思いも、今は幻。 「それでいいさ…」 心地よい浮遊感。 深く、深く…… 沈み行く、翠の螺旋。 色のない夢にさまよい、探し当てた闇の淵。 |