サイレン 剣を杖に、身を支え。 存分に動きもしない足を動かし。吐息も凍らせる山を力なく踏みしめる。 痛みはとうに解らない。傷の持つ熱すらもう感じない。 何気に掌を見れば。 あの男の大きな手を思い出した。そんな余裕などどこにも無いのに、笑みがこぼれた。 目の前でむざと死なせてしまった大切な人たち。 『生きる』と約束したのに、今自分は死に向かい合っている。 せめて、いま出来る約束を護らなくては 一つは敬愛する召喚士の娘をビサイドへ連れて行くこと。 二つ目は・・・・。 ・・・の息子を護りに行かなくては・・・。 そして 自らの肉体が死んでいくのを冷静に自分で見詰た。 死して急速に熱を失っていく肉。 血に汚れた体は最期の涙を流したのか。薄汚れた跡があるようにも見え。 幻光虫で構成されたこの体には熱はあるのだろうか。 ただ一人、途方に暮れていれば。 未だ幼さの抜けない少年に出会った。 少年は死して尚、この身を動かそうとする俺の姿に信頼を置いてくれた。 自らもその純朴な人柄を信頼し。 ロンゾの少年に敬愛する召喚士の娘を任せた。 彼ならばきっと約束を果たしてくれる。 人を信じることを忘れていた自分が。 ここまで来て人を信じれるのは・・・誰のお陰なんだろう。 そして一人。 再び極寒の山を目指した。 そこに行けば。 もう一度、失われた・・・に出会える気がして。 もう時間は気にならない。 逢えるその時まで。 待とう。 体を失くしたこの半端な器に、世界は理屈を教えてくれる。 目を閉じ、ただ享受すれば望む知識を与えてくれた。 世界。 召喚士。 エボン。 究極召喚獣。 ・・・その成れの果て。 ああ。 貴方も、・・・も。 無駄にその命を散らしてしまったのか・・・? 世界を知れば知るほどに。 貴方達の死はスピラに小さじひと掬いの希望を与え。 スピラを覆い尽くすほどの絶望を与えるんだ。 そして。 世界を喰らい尽くす巨大な絶望は。 一年を待たずして復活し。 その巨体を俺が佇む山の頂上に見せた。 俺が此処にいることが分かったのか? ・・・ジェクト。 この世界の些細な平和が終わりを告げる。 警告を鳴らして。 end |