100のお題  053:壊れた時計


壊れた時計


「・・・動かない?」
壁を見詰めて言葉が滑り出た。
かけられた丸い時計が沈黙していた。


このザナルカンドに来て。
『時間』を計るという道具があるのだと知る。


幼子が服の裾を引っ張って教えてくれた。
「電池を入れ替えればまた動くんだよ。」と。


「とってくれる?」
高い位置に掛かった時計を手にとって、幼子に渡した。
後ろを開いて見れば、細かい部品が絡み合って。
小さな手が電池を差し入れたとき。
再び時計は目を覚ました。


「う・・・ごいた・・・。」
「ホラね。壊れてるんじゃないんだよ?」
きらきらと輝く瞳が嬉しそうに告げた。
「ああ・・・。また、動いてよかった。」
曖昧な返事しか返せなかった。





俺の時計も止まっている。
ひび割れ、破片を撒き散らしたまま。
もしかしてこの時計のように動かす事が出来るかも知れない。
俺には考え付きもしない方法と手段で。
望んで止めた時間ではないが。
でも。
俺は本当に止める事を望まなかったか?
そう。
苦楽を共にした彼らのために。


巡る考えは決して出口を教える事はなく。
ふるりと頭を振って。
詮無い考えを捨てる。







「よいしょ・・・っと。」
目の前で金色の髪の子供が簡単に時計を外した。
少しだけ背伸びをして。
「もう駄目っスねー。電池換えても動かなくなっちゃった。コレ古いからなー。」
子供は手の中の時計をじっと見詰めた。
「まるで俺のようだな。」
自嘲気味に呟いた言葉を、子供は聞き逃がさなかった。
「どこが?なんで?アンタの時間、ちゃんと動いてるじゃん。初めて会ったときよりもずっとオッサンになったッスよ?」
けらけらと笑う少年を見て、気が付かされる時間の経過。
それでも。
「・・・そうだな」
と答えるしかなくて。



俺の時間は止まっている。
動いているのは俺を取り巻く外側の部分だけで。
内部の俺を作り上げている部分は錆付いて壊れたまま。
あの日の悲しみを鮮明に留めている。





永遠に動かない壊れた時計。






end


「アーロン一人称で」というリクエスト、快く応じて下さった 【CRYSTAL WIND】 安藤蒼師様。
超難題、と仰りながらも、想像以上の素敵な作品に仕上げて下さいました。
罪悪感や未練、拭えぬ彼らへの想いが、アーロンをあの場所に縫い付けた。
もしかしたら、そうしたのは他でもない自分自身・・・と気付いているのが辛いです。
幼いティーダ、成長したティーダ。
それぞれとのなにげない会話の中、悟されるアーロン。

もうすぐだよ、大丈夫。(ああ抱き締めたい....。゚(゚´Д`゚)゚。)
動かすその時がやって来る。
己の時間を、己の手で。

蒼師さん、ありがとう。アーロン一人称大好きなんスよー!!!
遅くなって、ごめんね><


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