それが、ただ十五の娘であることは知っていた―― 「ね、おっちゃん」 リュックの小さな両手が、男の節くれだった手をとった。 やわらかく、そして暖かく。それは『死』すら優しく包みこんだ。 「ううん……やっぱ、なんでもないよ」 リュックは照れたように、男を見おろす。 みずみずしいライムグリーンの瞳だった。 深い森の中の湖のように澄みきっている。 アーロンは、その瞳から少女の感情を読み取ることができなかった。 あまりにも透明で、静か。喜びも悲しみも、怒りも、すべての感情を浄化している瞳。 それは、十五の娘が持つものではなかった。 それは、すべてを知った者の、悩みと苦しみの果ての眼差し。 もう、どうにもならないことを許し、受け入れた者だけが持つ光。 ――これをここまでにしたのは、この俺だ。 アーロンは苦い思いで、握られた手をのばしてゆく。 少女の手が、男のむき出しの左腕をスルリとすべる。今度は腕ごと絡みついてきた。 アーロンは指先で、少女の頬にわずかに触れてみた。 そして心の底で語りかける。 ――今、この『時』をお前に捧げよう。代わりに…… ――俺は、お前の『今』を頂いて逝く リミットは近づいていた。 男のすべては、闘いのためにある。 だがそれでも。 今だけは―― 想いが通じたのか、リュックがアーロンの腕をきつく抱きしめた。 それは、あまりにも儚(はかな)い力。 男の腕は、少女の柔らかな胸の奥にある、熱い鼓動を聞いていた。 男の胸にも、溢れてくるものがあった。 ――リュックよ 男は少女の名を呼ぼうと口を開いたが、喉まで出かかった声は出ず。 少女の頬をなぜた手が、「愛している」という言葉にとって代わった。 |