「だぁぁぁっ!!スゲェな!オイ!」 天然の野生児のような男が夜空を見上げて、大声を放つ。 「少しは静かに騒げ!」 苛ついたように黒髪の青年が怒鳴る。 「・・・アーロン。それはどうすればできるんだい?」 柔らかい微笑を浮かべた召喚士は呆れたように言った。 失言を、とこほんと咳払いで誤魔化し、野生児に向かう。 「何がそんなに凄いんだ?ジェクト。」 「あれだよ、あれ!今の今まで気にも留めなかったぜ!」 嬉しそうに空を見上げて、両腕を広げる。 「・・・星、だね。」 ブラスカも夜空を見上げる。 そこには満天の星。細かな6等星までよく見えた。 「おおよ!こんなにたくさん星が見えるなんてな!俺のザナルじゃ全然星なんか見えなかったぜ?」 素直にアーロンが疑問を口にする。 「何故、夜に星が見えんのだ?」 「眠らねぇ街だからな。ザナルカンドは。一日中明るいんだよ」 わからん、と首を捻る姿を可愛いな、と思いつつ。 「こっちじゃ無ぇもんな。電気ってヤツで、夜も昼のように明りぃんだよ。」 ふぅん、と曖昧に返事をするアーロンにブラスカが助け舟を出す。 「私の家にあったマキナの原動力見たいなものだね。」 「へぇ。こっちにもそんなもんあるんか。」 機械も何にも無いんかと思ったぜ、と笑いながらジェクトは空を仰ぎ続ける。 不意にブラスカが座り込んで、ごろりと寝転んだ。 「こっちの方が楽だよ。」 「いいねぇ♪」 「え?え?ブラスカ様、今日はここで野営するんですか?」 ジェクトがアーロンの裾衣をつん、と引っ張った。 「ブラスカがここで休憩だっつてんだからよ。お前ぇもとっとと転がれって。綺麗だぜぇ?」 戸惑いながらも、二人に倣って寝転がった。 月も無く、隅々まで細かな星が敷き詰められている様は、 光の絨毯のようにも見え、今にも降り注いでくるようでもあった。 「・・・綺麗だ・・・。」 ポツリと呟いた。今まで生きる事に懸命であり過ぎて、星を見上げる余裕など無かった。 ただ其処にあるだけであって、美しさを愛でることなど無縁であった。 誰も言葉を発しない時間が静かに流れる。 輝く天の川。両岸に一際輝く星が一つずつある。 その輝きは、アーロンに幼い頃に聞いた物語を思いださせた。 「そういえば・・・。」 アーロンから零れた呟きにジェクトとブラスカが反応した。 「どうした?」 ジェクトがアーロンの横顔を見れば、当の本人は空から目を逸らす気配は無い。 「昔・・・。聞いた物語を思い出した。七の月の七の日に、 あの両端に輝く星に準えられた恋人たちが出会えると言う・・・」 「どこかで聞いたような気がするけど・・・私も良く覚えていないな。」 ブラスカもまた、夜空から目を離す様子は無い。 ジェクトが急に、がば!と起き上がった。 「なあ、おい。そりゃ年に一回しか逢えない恋人が出会えるめでてぇ日じゃねぇのか?」 「ええ?うーん。何かちょっと違うような・・・」 ブラスカもゆっくりと起き上がる。 「・・・俺が覚えている限りでは、悲話であったような気がするんだが・・・。」 アーロンは寝転がったまま。眉根を寄せて考え込む。 「いやゼッテ―めでてえ日だって!お祝いしよ―ぜ!おー。七の日っていやぁ今日じゃねぇかv」 ジェクトはブラスカの肩に手を廻して、おねだりをする。 「なぁなぁ。ブラスカー。祭だろ?一日だけ!いや今晩だけでいいからよ、禁酒解いちゃ駄目か?」 アーロンが物凄い勢いで起き上がった。 「あんたが自分で決めた事だろうが!!」 ブラスカはニコリと微笑んでジェクトに告げた。 「アーロンが良いって言ったら、久しぶりにみんなで飲もうか。ここは迷惑かけるようなものは何も無いしね。」 そうとなれば、ジェクトの行動は早い。 「絶対に、迷惑かけません!勿論オメェにも、ブラスカにも。なぁ・・・誓うぜ。」 今までとは打って変わって真剣な眼差しをアーロンに向ける。 心ならずも顔が熱くなるのが判った。 流されていると自覚しつつも 『仕方がないな』 と言ってやろうとした瞬間。 「良かったじゃないか、ジェクト。ちゃんとアーロンから許可が下りたようだね。」 「あ。こら!馬鹿ブラスカっ!!せっかくアーロンちゃんがこーんなに可愛い顔見せてんのに!!勿体ねぇっ!!」 「俺はまだ何も言ってません!!それにジェクト!ブラスカ様に向かって馬鹿とはなんだ!馬鹿とは!!」 お前は水でも飲んどけ!と、アーロンは背中を向けた。 「だぁああぁっ!ごめん!悪かったって!!」 アーロンが無視し続けても、ジェクトの謝り倒す言葉は一向に止むことは無い。 はぁ、と溜め息を付いてジェクトのほうへ向き直る。 「今晩だけだ。良いか?今晩だけだ・・・って、うわっ!人の話を聞け!放せ!馬鹿っ」 「さぁんきゅーーーー!アーロンv」 アーロンの言葉の途中にジェクトは、がばっと抱きついた。 力任せにジェクトを引き剥がす。ブラスカが見ていたら、何を言われるか判ったものではない。 「・・・けち。」 「聞こえたぞ、馬鹿ジェクト。あまり下らんことを言っているともう飲ませんぞ?」 言いながら、グラスをジェクトに向かって放る。 ぱし、と乾いた音を立ててジェクトの手の中に収まった。 「はいはい。夫婦喧嘩は終わったかな?乾杯しようか。」 ブラスカがにっこりと笑い、瓶を差し出した。 「ブ、ブ、ブラスカ様・・・っ!ふっ夫婦っ・・・?!」 耳まで真っ赤になってうろたえるアーロンを尻目に、ジェクトとブラスカは互いのグラスを満たす。 「ほれ、お前も。」 ジェクトがアーロンのグラスにも酒を満たした。 未だに紅い顔のまま、あ、ありがとう、と告げた。 「それでは。」 アーロンとブラスカはグラスを目前に掲げる。 「よう、オメェら!逢えてよかったな!おめっとーさん!」 ジェクトは夜空へ向かってグラスを掲げた。 改めて、三人で声を合わせる。 「乾杯!」 |